子供のために書かれた絵本が、深く胸に刺さることがある。
余分な言葉や情報を削り、子供にもわかる優しい絵や言葉で表される点が、逆に大人の心の奥深くまで響いてくるのは不思議だ。
幼かった「ぼく」は、穏やかにやさしい「おじいちゃん」と毎日のように散歩をしながら、少しずつ世の中のことを知っていく。足元の虫や花、動物…世界はたくさんの素敵なものであふれていることを、おじいちゃんは教えてくれる。
やがて、近所の子供との小さな衝突や、吠える犬やヘビ、スピードを出して走る車など、世の中には怖くて悲しいこともたくさんあることに気づいていく。
でも、どんな時もおじいちゃんが「ぼく」に言ってくれたのは「だいじょうぶ だいじょうぶ。」という言葉だった。世の中の不安や困難に押しつぶされそうになっても、おじいちゃんのこの言葉がいつもぼくを支えてくれたーー。
私達は、目まぐるしく過ぎていく毎日の中で、「勝たなきゃいけない」「これではいけない」「なんとかしなきゃいけない」とばかり考えてはいないだろうか。今の自分にダメ出しばかりして、自分の背中にムチを打ちながら走り続けている。
「だいじょうぶ」と、自分に言ったことがあるだろうか?「だいじょうぶ」と、誰かに言ってもらうことなんて、あるだろうか…?
この絵本の中でおじいちゃんが優しく繰り返す「だいじょうぶ だいじょうぶ。」の言葉は、「ぼく」の心の中に、「ぼくはぼくのままで大丈夫なんだ」という自信を育てていく。おじいちゃんの言葉は、「世の中は、本当に恐ろしいことであふれている訳ではないんだよ」ーーという、何よりも大切な「安らぎ」を「ぼく」の心に植えたのだ。
その「安らぎ」が育ち、少年になった彼は、花束を抱えて病院へ向かう。今度はぼくが、病床のおじいちゃんの手を握りながら、「だいじょうぶ だいじょうぶ。」と繰り返し言ってあげるんだーーと。
ストーリーだけでなく、いとうひろしさんの絵も、どこまでもやさしく温かい。きっと誰もがもっている、おじいちゃんやおばあちゃんと手を繋いで散歩をした記憶。そよ風の匂いや砂場の砂の手触り、日射しの穏やかさ。そんな細かな思い出まで、鮮やかによみがえってくる気がする。
温かくなり、嬉しくなり、やがて切なくなり…読み終えた後、目に見えぬ何かに優しく励ましてもらったような、不思議な気持ちになる一冊だ。
↓大型版になると、感動が数十倍になる。この違いにも驚く…。